「さて、貴様の目的を聞こうか、デュークモンよ」
「先ほど申したとおり、見極めたい事がある。それだけの事」
「相変わらず、か……」
「貴方も相変わらず物好きだ……」
要を見送った後の二体の会話だ。
二体とも、お互いの事はよく知っているようだった。

さて、そんな会話がなされているとも知れず要は着々と戦闘に向け動き出していた。
ドルガモンに出してもらった大量の鉄球を前に、ドルガモンとDモバイルで連絡をとる。
お互いに準備は整ったようだ。

「それじゃ、戦闘行くか」
「オッケー、もう夜だし、足元に気をつけてね」
「おいおい、俺はどこのガキだ? そっちも気をつけろよ」
「オイラは大丈夫だよ、それじゃ、やるね」
「おう」
ナイトモンの群れは大分近くに来ていた。
だが、速度は遅めなのでまだ余裕はある。
早めに片付けてしまいたいところだ。

と、ドルガモンが攻撃を開始したようだ。
ナイトモン達が上を見上げているのが分かる。
だが、ドルガモンの姿はあんまりよく見えないな。
まぁ、結構黒い色してるからなぁ……。

「パワーメタル!」
一方的に上から攻めながらナイトモン達の注意を惹きつける。
けれど、ナイトモン達は当然のようにその剣でもって防御してしまうため効果はなかった。
それを見ながらドルガモンは要の言った通りだなぁ、と心の中で感心していた。
それでもドルガモンは攻撃の手を緩めなかった。
要の作戦だから、ドルガモンは信じていた。

「ん? ナイトモン達の動きが変わった……」
山の上からその事が確認できた。
それを見ながら俺は考えを巡らせる。
飛行能力のないナイトモン達が行える上空への攻撃方法。
跳躍ぐらいかな。
肩車とかは正直頭が良いとは言い難いし……。

「ドルガモン、ナイトモン達の動きが変わった、多分、お互いに投げ飛ばすと思う」
『なるほどね、一方的な攻撃にはならなくなりそうなわけだ』
「でも、作戦としてはその方が都合がいいんだ」
『オッケー、それじゃぁ頑張るよ』
今回は俺も頑張らないとな。
そう思いながらも今は見守るだけだった。
勝機に一気に勝負を賭ける。

要の指示を聞いてドルガモンはナイトモン達の動きに注意を配る。
のだが、その後のナイトモン達の行動に唖然とした。

「肩車……?」
それは何とも言い難い間抜けな光景だった。

それは山の上から観察していた俺の目から見ても間抜けで……。
真面目に作戦を立案してるつもりの俺からすると何だか悲しくなる光景だった。
だが、念のために肩車をしているナイトモンから狙うように指示を出しておく。
防御するたびに重心が崩れナイトモン達は崩れていっていた。
それを見てまた悲しくなった……

『カナメの予想はずれたね』
「すまん、俺も悲しいんだ……」
『オイラも凄く同情してる……』
それでも3段まで作ったナイトモンがいたのには正直賞賛したりもするが……。
とりあえず、向こうにもいるだろう司令塔の阿呆さ加減には呆れるばかりだ。
きっと、戦闘も今ばかりで先の事は見据えていないんだと思う。
そんな事を俺が考えている時、ドルガモンは司令塔が要で良かったと思っていたらしい。

「さて、日も十分沈んだしそろそろ締め括りといきますか」
『オッケー、足元には気をつけてね』
「そっちもな」
『オイラは空飛んでるから大丈夫だよ』
そんな会話をしながら俺はそこら中に石で止めておいた鉄球を押し込む。
軽く押せば転がっていくので、高めの位置のいくつかを押せば連鎖的に転がるようになってる。
それらが全て坂道を降って加速しながらナイトモンの群れに突っ込んでいく。
加速し威力を増した鉄球だが、ナイトモンは上ばかりに気をとられていて防御できなかった。
故に鉄球の威力はそのままダイレクトにナイトモンを突き飛ばす。
そして、その突き飛ばされたナイトモンがその後ろのナイトモンを次々将棋倒しに倒していく。

「カナメの作戦うまくいったね」
「あぁ、ドルガモンが頑張ってくれたおかげだ」
その後はナイトモン達は混乱していた。
そして、その混乱で動き回るせいで地面に転がりっぱなしの鉄球でまたこける。
ナイトモン達の混乱はまだまだ続きそうだった。
決定打とはならないがお互いに消耗してくれるだろう。
そう思っていた矢先だった。
ナイトモンの軍団に異変が起こったのは……。

空に輝く白い光の竜。
それが数百はいただろうナイトモン達を一斉に飲み込む。
竜が通った後には何も残らず、全てを塵へと帰していた。

「なんだ……アレ?」
「アレは……どこかで見た事がある。けど、思い出せない……」
「とにかく、スーツェーモンの所に戻ろう……」
「うん」



ところ変わってナイトモン達の後ろに控えていただろう二人の姿があった。
「ふぁ〜あ、よく寝た」
「ふぁ〜あ、よく寝た。じゃありませんよ!何で寝ぼけてブレスオブワイバーン出すんですか!」
「うるさいぞ、ロードナイトモン。俺のブレスオブワイバーンで死ぬ奴らが悪いんだ」
「貴方のその性格が信じられませんよ、デュナスモン!」
などと白い竜騎士と桃色の騎士が口論というか、喧嘩を繰り広げていた。
一方的に怒りをぶつける側と受け流す側という喧嘩とも言い難い状況だが……。
けれど、このデュナスモンというのが先ほどの白い竜の正体らしい。
あれは、一般的な究極体の必殺技の威力をゆうに越えた技だった。
とは、一般的な究極体というのを知っている者が見れば当然のように言うだろう。
それほどまでに圧倒的な威力を誇っていた。

「全く、それで自分の部下も昔に全員殺してるんですから、困った隊長様です……」
「お前だって弱いと見ればすぐに殺すだろうが」
「ふ、あんな弱いのは私の部下ではありませんからねぇ」
先ほどのナイトモン達はどうやらこっちのロードナイトモンの部下だったようだ。
という事はこのロードナイトモンがナイトモン達に指示を出していたと見ていいだろう。
…………。

「さて、次の地へ向けて移動するか」
「はいはい、どうせ、またワープですけど」
二体の背後に現れたゲートが二体を飲み込むとそこにはもう誰も残っていなかった。



向こうの状況も知らず俺達はスーツェーモンの下へと無事辿り着いていた。
辿り着いたのだが、殆ど逃げ帰りなので、やっぱり不安は募るもので……。
また別の試練とか言われたらどうしようか……。

「よく戻ったな、カナメ」
「あぁ〜、まぁ、一応」
「試練を乗り越えたと言うのに不服そうだのぅ」
「いや、そんな事はないさ、な、ドルガモン」
「え、あ、うん、そうだね、カナメ」
話を振られるとは思っていなかったのかドルガモンは一瞬あせっているようすだった。
まぁ、そりゃいつも一対一で会話しちゃうもんなぁ、俺……。
少し考えて話さないとな……。
かといって今回のこれは別にそういうの気にしてないけど。

「さて、それでは約束通り、お前の力を認めてやろう……」
「あぁ、ありがとうスーツェーモン」
そう言って近づく俺の目の前に槍が突き立った。
それはさっき見たデュークモンの槍……。
そして、槍に気を取られたのか、デュークモンが目の前に降りてきたのに気づかなかった。
何だろうか、この威圧感は……。
いや、それよりも……。

「何のつもりだ、デュークモン」
「少し付き合って貰いたくてつい、な」
「全く面倒な奴だ……。この馬鹿息子が」
「いくら育ての親だからとて、自立した今となっては何の関係もないな」
あぁ、この二人ってこういう関係だったんだぁ、などと思いながら傍観者になっていた。
けど、槍の刺さり方が明らかについってレベルじゃないんですが……。
それについとか言ったら何でも許されると思ってるんですか?
一歩間違えれば足に風穴開いてる!

「して、貴様はこれ以上何を見ようと言うのだ」
「力は十分に見た。だが、アレでは見えぬ物がある」
「全く、回りくどい言い方をする……」
俺完全放置だな……。
という事でドルガモンと目を見合わせて不安になってたりもするのだが。
これはどういう展開なんだろうな。
いったいどうしろと……。
それよりも、何かもう早くここ出たいんですけど……。

「さて、カナメ殿」
「え、あ、はい?」
槍を抜きながらデュークモンがこちらに真剣な眼差しを向けている。
何だか恐ろしい気迫だった。
いや、気迫とはまた何だか異質の何か……。
殺気とでも言えばいいのか……。
触れていて気持ちのいいものではないのは確かだった。
そして、一瞬の間に間合いを詰められる。
と、既にデュークモンはドルガモンの前で槍を構えていた。
スーツェーモンは興味ありませんよ、とばかりに大きく欠伸していた。

「さぁ、選べ。今ならお主はゲートを開けば我が槍を受けずに逃げれるぞ……」
「な、何言ってるんだよ……」
「イグドラシルを狙う者なのだから、我らロイヤルナイツが見過ごすと思うか?」
「ロイヤルナイツって……。まさか、イグドラシルを守る聖騎士なのか?!」
「そうだ。さぁ、ドルガモンを見捨てて逃げるか、二人とも打ち果てるか?」
突然の事で頭が回ってなかった。
まさか、ボスの守護者が目の前にいたなんて、予想外だ……。
俺はいったいどうすれば良いんだ……。
けど、俺はDモバイルに手をかける気すらなかった。
ここで逃げたらドルガモンは助からない……。

「ならば、死ね」
「待て!」
気づけばドルガモンの前に出ていた。
槍が目の前で止まる。
デュークモンの目が見える。
それでも俺は退かなかった。

「パワーメタル!」
俺の後ろからドルガモンが鉄球を放つ。
だが、そんなものものともせずにデュークモンは俺に槍を向けたまま黙っていた。
それに対して俺も黙る。
体中から嫌な汗が流れ、この緊張感に体の節々も軋んでいたが、それでも退くわけにはいかなかった。

「お主は何のためにそこにいる」
「うるせぇ、ここ退いたらドルガモン殺すだろうが……」
「会って間もない者のために命も賭けるか……。面白い」
「いくらでも笑えよ。それでも俺は退かねぇからな」
すっと槍が引いた。
と同時にデュークモンも踵を返していた。
何だったんだよ……。

「いいか、他のロイヤルナイツも私のように甘いと思うな」
そう言い残してデュークモンは真っ赤の飛行物に乗ってどこかへ去っていった。
ドルガモンは俺に駆け寄って大丈夫か、と頻繁に聞いてくる。
けれど、本当にあいつは何だったんだ……。
と思っていたら目の前に赤い珠が降りてきた。

「持ってけ、我がデジコアを」
「あぁ、サンキュ。それじゃぁ、俺達は次のエリアに行くよ」
「行って来い。そして、あの頑固者に会って来るが良いわ」
面倒くさそうだな、スーツェーモン……。
などと思いながらもスーツェーモンの珠にDモバイルに翳す。
やっぱりまたゲートが開いた。
次は東か西か……。
今度は何がくるのやら……。

スーツェーモンは要達が去っていくのを見ていた。
その後でふと呟く。
「面倒くさい、馬鹿息子め……」
と……。


俺達が次に降り立ったのは草原と雷雲の見える山だった。
しかし、もう日が沈んで大分経つのでドルガモンは休ませた方がいいだろうな。
という事でどこかよさそうな場所を探して歩いていった。
ドルガモンはどこでもいいよ、と言っていたが、安全な場所がいい。

どうやら相手さん方も真剣に動いてる……
と来れば別行動中に狙われないとも限らない。
先遣隊までいたぐらいなのだから簡単に見つかる場所は避けるべきだろう。

――隠れ場所なら良い場所を教えてやろう。
「へ?」
「あ、チンロンモンの声だ」
「知り合い?」
――久しいな、お前の声を聞くのも。
どうやらお互いに知り合いのようだ。
けれど、そのチンロンモンとやらはどこにいるのだろうか……。
声の方向すら分からないし……。
なんかあれかな、小さくて実は足元にいました、とかそんなオチ……。

じゃないか。
突如として足元に降りてきた巨大な影。
チンロンモンとやらは上空の山の雷雲にいたらしい。

「さて、お前がシェンウーモンの言っていた人間か」
「またシェンウーモンからか……」
「あれでシェンウーモンは仕事させるのは速いからねぇ」
「あぁ、サンティラモンから既に聞いておる」
というと、サンティラモン・インダラモン・パジラモンのどれか経由か。
それなら納得かな。
まぁ、それにしては速度が桁違いだが……。
誰かは知らないが一日もかけずに南から北まで一気か……。
いや、俺達の使ったゲートに一緒に潜ってたのかもしれないか。

「それより安心して休める場所が欲しいのだろう?」
「あぁ、教えてもらえると助かるね」
「とか言ってる間にもう移動完了させちゃってるのがチンロンモンだよ。カナメ」
「へ?」
気がつけば周りには草原なんてものはなく、山の中腹辺りだった。
これは何だ……。
何の特殊能力だ?

と思ったら、気がつけば足元だけは草原だったのだが、それが霧となって消えた。
今のは何だ……?

「チンロンモンは人を驚かせるのが好きでね、雷の力を応用して景色を誤認させるの」
ドルガモンが耳打ちして教えてくれた。
しかし、雷でそんな事をするなど、相当練習したんだろうなぁ……。
なんという暇人。

とはいえ、その暇人の所業によって楽に移動できたのは助かったか。
素直に礼を述べるとチンロンモンはまた明日会おうと言って雷雲に戻ってしまった。
あの巨体だが雷雲に戻るまでに3秒と掛かっていなかったのは正直感服した。

「それじゃぁドルガモン、また明日な」
「うん、また。けど、一日で四聖獣を二箇所も回れるなんて凄いね」
ご都合主義だな、と心の中で呆れながら俺は自分の世界に戻った。
あんなデカいチンロンモンが教えてくれた場所なんだし、多分安全だろう。
ドルガモンももう寝ているようだった。
などと思って部屋の時計を見るとちょうど向こうとは12時間の違いがあるようだった。
こっちは今PM01:23さすがに俺も眠いので一眠りするとしよう。



「ドルガモン、起きているな?」
「起きてるよ、チンロンモン。やっぱりこんな事じゃないかと思ったよ」
「やはり、思い出したのだな……」
デジタルワールドではチンロンモンとドルガモンの密談がなされていた。
どうやらチンロンモンは最初からこのつもりだったようだ。
そしてドルガモンもその事は承知の内だったらしい。
お互いにお互いの事をよく知っている、そういう事だろう。

「さて、ではドルガモン。いや――」
「いいよ、ドルガモンのままで、オイラはまだ自分の事は思い出してないんだ」
「そうか……。では、ドルガモンよ。お前は何故カナメを選んだ」
「オイラが選んだ……。なんでだろう、それは分からない」
会話は成り立ちそうで、その一歩手前。
お互いに知っている事は多くとも、重ならない。
それがまた少しだが、確実に会話の歯車を噛み合わせていないのだろう。

「まだ記憶は完全ではないのだな……」
「そうだね……。でも、カナメじゃないといけないんだと思う」
「そうか……。ならば、私はお前の判断を信じるとしよう」
「きっとカナメとならイグドラシルを止められると思うよ」
チンロンモンはそれを聞いて一つ黙って頷いた。
けれど、本当はどうなのか分からない。
カナメは確かにうまくやってくれている。
だが、ここから先も今まで通りにいくのか?
これからの戦いはきっと今までと比べ物にならないものになる。
それでもカナメはついてきてくれるだろうか……。

「ドルガモン、一つ昔話をしてやろう」
「え?」
チンロンモンが語るのは戦争の話だった。
デジタルワールドの中にあって、幻とも言われているようなもの。
それはデジタルワールドの殆どを巻き込んだ壮絶な戦争。
きっかけは分からない。
だが、その規模だけはどの歴史を見てもその戦争が最も大きかった。

戦争に参加しない者は隠れながら巻き込まれないように逃げる。
戦争に参加している者は誰彼構わず攻撃を加えていく。
その様に一人のデジモンが立ち上がる。

そのデジモンは各地を回り、協力を求めた。
だが、誰もそのデジモンに協力する事はなく、ただ戦争を見つめるだけだった。

「なんか、ひどい話だね……」
「そうだな、一人だけが闘志を燃やす中、他は皆冷めていたのだ……」
話は続く。
結局全ての地を回っても協力する者もおらず、助力もなし。
それでもそのデジモンは戦争を止めるために戦った。
たった一人で戦争の群れに飛び込んだ。
その目は、深く沈んでいた。
その戦争で僅かに生き残れた者は皆口を揃えて言う。
「きっとあれは夢か何かだった」と。
それほどまでにその光景は……残酷だった。

「残酷……?」
「たった一人のデジモンが戦争に参加した大勢のデジモンを一瞬の間に殺したのだ……」
「…………。」
ドルガモンは言葉を失っていた。
なんとなく光景が目に浮かんだ。
何百何千、いや、何億という数に囲まれながらそれを一瞬の間に……。
視界が血に染まり、周りの見えない中、敵を探しながら攻撃する。
自らの肉体が滅びるまで暴れ続けるそれはきっとただの人形のようだっただろう。

「しかし、そのデジモンをそんな風にしたのは他のデジモンだ……」
「虚しかっただろうね、きっと……」
「あぁ……。それを分かりながら本当にすまない事をした」
チンロンモンはその相手に謝るかのように言葉を述べた。
それを見ながら、ドルガモンはチンロンモンがどれほどの後悔をしているかを悟る。

「それなら、直接そのデジモンに言うべきだよ。きっと許してくれるから」
「あぁ、そうだな……。すまん」
そう言ったチンロンモンの顔は凄く疲れて見えた。
それを見止めたドルガモンは静かにその場を後にした。
チンロンモンも暫くした後で雷雲の中にその身を戻らせる。

「アルファモン、お前はあの時どこへ行った……」
雷雲の中でチンロンモンが呟いた。

星堕ちる迄 第四話 終