あれから俺達は一度別行動を取る事にした。
グレイドモンの姿では少し大きすぎるため学校の付近に隠れていてもらう事にした。
放課後、すぐにでもデジタルワールドに行くつもりで。
もう俺に迷いはなかった。

「それじゃぁ、出欠を取るぞ」
しかし、今日竜太は休みだった。
あの体力馬鹿が珍しいな、と思いながらこの平穏に身を投じていた。
のだが、なんとなく落ち着かないのも確かで……。
多分、俺はあの時の事を後悔なりなんなりしている。
なんか、自分の事なのによく分からないってなんか変だな。

「お、今日はお勉強しないで話聞いてたんだな藤堂」
「え、あぁ、はい。もうやる事なかったんで」
嘘です、聞いてませんでした。
考え事してただけなんて嬉しそうな先生にはいえないよな。
ま、いいか。
そういえば、グレイドモンはどこに隠れてるんだろうなぁ……。
あんな金ぴかでうまく隠れられてるのか……な?
屋上に妙な光が見えたような……。
気のせいかな……。

「あ、カナメがこっち見てた」
しかし、要の見ていたものは紛れもなくグレイドモンだった。
というのも、学校を見つけたのが明け方で隠れ場所を探す余裕などなかったのだ。
まぁ、屋上は開放されていないため、ある意味では最適な隠れ場所ではある。
あまり動かなければ、だが

「明るいのに、眠いなぁ……」
などといってグレイドモンはその場に寝てしまったりもするのだが。
物事は案外都合の良い方向に動いていたりする。

あぁ、一時間目は数学かぁ……。
俺は数学は得意な方だが、それでも面倒なのには変わりなかった。
とはいえ、教科書の問題は全て終わらせてしまってあるので、他の事をする余裕もある。
が、他の事って何すればいいんだろうか……。

「それじゃぁ、藤堂これ前に出てやってみなさい。どうせ終わってるんだろう?」
「はい」
教科書にやってあったものを丸写し。
はい、終了……。
やりがいないな……。
そういえば、ロードナイトモンとかどうしようか……。
アレら一応グレイドモンより等級上の究極体らしいしな。
けど、まぁ、ロードナイトモンはいいか。
速くても相手の狙う場所とかには癖があったし。
デュナスモンは……あの瞬間が勝負だな。

「藤堂ついでにここもやってくれな」
「俺ばっかですか」
数学の授業は俺が前に出て答える授業になりかけていた。
って、先生、もっと平等に行こうよ……。
などと言ったところで、聞き入れられる事もないだろうが。

この次は体育か……。
体育は面倒くさい水泳……。
更衣室まで水着を持っていって……。
と、ちょうどその時物凄い衝撃が校舎全体にわたった。

窓から外を見る。
学校の校庭に奴らがいた……。
ロードナイトモンとデュナスモンの二体が……。

「ほぅ、ここが人間界という奴か……」
「全く、ゲートをいじくって人間界にまで出すなんて貴方しか考えませんよ」
「何を言う、奴らだって普段からゲートを使って行き来してるのだぞ?」
「それはそうですけど、普通考えませんよ」
と何やら会話しているが……。
まぁ、グレイドモンがこっちに出て来れたんだし、奴らが来るのも頷けるか……。
むしろ、考えて然るべきだったな……。
夕方と言わずにすぐにでもデジタルワールドに行くべきだった。

「おぉぃ、破壊者AとB。いるんだろぉ」
「だから、その呼び方は何ですか……」
そこにパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
恐らく誰かが呼んだんだろう……。
逆に都合が悪いな。
そう思って俺はこっそり教室を抜け出した。

「グレイドモン、屋上にいたりするか?」
『あ、カナメ、おはよう』
寝てたんだな、と半ば呆れながら俺は人に見つからないように校庭へと走る。
出来れば見られたくないので玄関口までに留まるが。
とりあえず……。

「やれるな? グレイドモン」
「いつでもどうぞ」
見ればデュナスモンがパトカーにむけて光弾を放とうと構えていた。
まずは、あれを止めないとな……。
グレイドモンはもう目の前に降りてるし、いける……!

「まずはあの車の集団を守らないとな」
「任せて」
そう言って飛び出すグレイドモン。
流星の如きスピードでもって放たれた光弾の前に出ると二本の剣によってその光弾を弾き飛ばした。
うわぁ、強いなぁ……。
そんな事を思いながらも俺は光弾が反れた先のフェンスを見る。
見事に焼き切れていたが、被害者はいないようだ。

「後ろ、来るぞ」
『クロスブレード――!!!』
電話口から必殺技を出す声が聞こえた。
それに伴ってロードナイトモンが吹っ飛んでいるのも見えた。
あぁ、やっぱり後ろから狙ってきたのか。
にしても、これどういう仕組みなんだろうな……。

『カナメ、見えてたんだ。あの速度でも』
「ロードナイトモン単純だから読み易いだけさ」
『なるほどね』
「次、デュナスモンの攻撃来るからジャンプで避けろ、またロードナイトモンが上から来るぞ」
『予言なんて凄いね』
そう言いつつもデュナスモンの放つ光弾をジャンプで避けるグレイドモン。
そこに予想通り上からロードナイトモンが攻めてくる。
が、先に分かっている攻撃ほど合わせ易いものもない。
グレイドモンはしっかりとそこに回し蹴りを加えていた。
やっぱ無駄に速度持ってるから見せ付けたくて後ろとか上とりに来るよな、あいつ……。

『へぇ、凄いもんだね。カナメのその予想』
「追いかけられてた時、下とか前からとか攻撃して来なかったからな」
『あぁ、それで』
「次は多分横から来るから、まぁ、適当にマント払うフリして肘打ちしてやれ」
という事で、またしてもしっかりと予想通りのポイントに来るロードナイトモン。
そして、顔面にモロに肘が入る。

「あっは、ごめんね、マントが邪魔で払ったらそこに来るんだもん」
「貴様ぁぁ……!」
なんて会話が繰り広げられているのが聞こえた。
指示の外で挑発……。
グレイドモンもやってくれるねぇ。

と、周りのギャラリーが介入してくるか……。
てきとうに見学しててくれればいいのに。

「グレイドモン、邪魔者が来そうだから、攻撃受けたら門のところまで踏ん張って」
『あぁ、あのケイサツカンだっけ? 了解』
「あと、今度はロードナイトモン前から来るから。多分鳩尾あたりかな」
殆どアッパーのように攻撃されたので、後ろではなく上に吹っ飛ぶグレイドモン。
が、直前の指示だったにも関わらず対処できたようで宙返りをすると、見事に着地していた。
しっかりと警察官達の目前に。

まぁ、予定はちょっと崩れたがいいか。
警官の一人が尻餅をついてるのは見えた。

「んじゃ、そこでいっちょ剣を横に一閃しながら下がってろって言ってみようか」
『なんか監督みたいだね、カナメ』
とか何とか言いつつグレイドモンは指示通りに動いてくれたらしい。
警官が少しビビッて下がるのが見えた。
まぁ、普通に見てもグレイドモンの大きさ大人の1.5倍ぐらいありそうだしなぁ。
デュナスモンなんて普通に4m弱っぽいし。

「えぇい、まどろっこしい……」
そう言ってデュナスモンが空へと飛び上がる。
アレだ……!
すぐさまグレイドモンに指示を出す。
アレは出させてはならない……。

「あれは出る直前が一番無防備だ」
『!……そうか』
「あ、後ロードナイトモンがまた後ろから来るから、踏み台代わりに使ってやれ」
そう言った直後にグレイドモンは空中で一つ前転すると、後ろから来たロードナイトモンをかわす。
そして、そのままロードナイトモンを蹴りながらデュナスモンへ向けて加速した。
よし、これなら間に合う……。
と思った直前グレイドモンがこちらに向けて吹っ飛んできた。
デュナスモンが攻撃を中断した……?!

「おい、人間!」
デュナスモンがこちらに向けて大声を上げてきた。
これはまずいか……。

「貴様が我がブレスオブワイバーンの隙を狙う事は分かっていた!」
あぁ、そういう事か……。
はめられた。
そう思いながらも俺はまた思考をめぐらせる。
正直、動きの読みやすいロードナイトモンはもう脅威ではない。
が、デュナスモンが厄介だな……。
このままデュナスモンの指示でロードナイトモンが動き始めたら……。

「グレイドモン」
『ん? 何、カナメ』
「デュナスモンの背後は取れるか?」
『なんとかすれば』
「なら頼む」
まだロードナイトモンとデュナスモンの動きが個別のうちに……。
今ならまだ間に合う。
単純だけど奴らを精神的に分断する。

「ロードナイトモンが右脇腹狙ってくるぞ。避けろ」
『避けるの?』
と聞きつつ身軽に身を捻るとグレイドモンはロードナイトモンの足首に払い蹴りをいれていた。
指示超えてるが十分やってくれるなぁ、やっぱり。
ロードナイトモンを弄べばそれだけ一瞬のチャンスが出来やすい。
確かにそれも一つ考えておくべきだったな。

「何を遊ばれてる、ロードナイトモン」
「何もしてない貴方には言われたくありません!」
なんだ、あいつらそこまで仲が良いわけじゃないのか……。
まぁ、それならもうすぐにでも実行しちゃっていいかもな。
グレイドモンがデュナスモンの背後をとれたら。
空を飛んでるデュナスモンの背後をとるのは難しいが……。

「グレイドモン、後ろから来るロードナイトモンに払い蹴り!」
『今度は避けないんだ、ね!』
見事にロードナイトモンに払い蹴りを決めれた。
次は……!

「そのままデュナスモンに蹴り上げろ!」
『忙しいなぁ』
と言いつつも見事なオーバーヘッド。
サッカーの才能あるんじゃないか……?
そんな事を思っていると倒立から見事な流れで立ち上がるとすぐさまデュナスモンに向け走る。
そう、ここが背後を取るチャンス……。

ロードナイトモンを受け止めるデュナスモン……って、避けたよ、アイツ!
ちょっとこれは予想外……。
だけど、グレイドモンは見事に背後を取っていた。

「たたき落とせ!」
『クロスブレィド――!!!』
デュナスモンが地面に激突するのとロードナイトモンが着地するのはほぼ同時。
よし、本当は空中でやるつもりだったが地面で狙おう。

「ロードナイトモン突っ込んできたらそのまま踏み台にしちゃって」
『なんとなく読めた』
下にはデュナスモンが追撃を恐れてか光弾を放つのが見える。
対してロードナイトモンはきれていて突撃ばかり。
冷静そうに見えて短気なのがロードナイトモン。
その逆がデュナスモンだ。
そこをうまく利用してやれば……。

「ガッ……!」
「ほら、追撃だよ」
そう言いつつグレイドモンは光弾をくらったロードナイトモンをデュナスモンへ叩きつける。
ロードナイトモンが不憫に見えてきたな……。
まぁ、ここまでうまくいってるのも全てはロードナイトモンのおかげ。
同情なんてしてる余裕はない。

「奴らの動きを封じるんだ!」
『ごめん、デュナスモンに避けられた』
剣二本を地面に投げつけて動きを止めようとグレイドモン自体も考えていたらしい。
が、それに気づいたデュナスモンは逸早くに逃げ出していた。
どうやら最も厄介な事にはならなさそうだ。
デュナスモンはロードナイトモンの事などもう気遣ってなどいない。
グレイドモンはそのままロードナイトモンの後頭部に踵落としを決めて、剣を抜いた。

「役立たずが……」
そう言うとデュナスモンは光弾を今まで以上の数構えていた。
おまけに威力もやばそうな……。
出し惜しみしてやがったのか……
そう思う頃にはもう遅い。
グレイドモンはこちらに向けて吹っ飛んできた。
ついでにロードナイトモンまで。

「チィ……ッ!」
舌打ち一つしてグレイドモンは着地しながらロードナイトモンも受け止める。
だが、その隙を好機と見たかデュナスモンが空に飛翔する。
ブレスオブワイバーンだ……!
先手を打とうにも間に合わない、逃げ……。
周りを見回す、ここは……学校だ。
逃げるわけにはいかない……。

『ウォォォォオオオオオオオオッ!!!!!』
けたたましい竜の咆哮がそこら中に響き渡る。
来る――!!

そう思った俺の前に立ち塞がる二つの影があった。
グレイドモンとロードナイトモン……。

「私まで巻き込むつもりか、デュナスモン!」
「悪いけどオイラは逃げろなんて言われても逃げないよ!」
二体ともがそれぞれの意志でブレスオブワイバーンの力に対抗している。
力同士が暫く拮抗していた。
激しい力のはずなのに衝撃は余す事なく激突へと向かっていた。
目の前で起こっている事なのにどこか、遠く……。

「頑張れ……頑張れグレイドモン!!」
「おう!」
ブレスオブワイバーンが消えた。
それと共に倒れる二体の姿があった。
鎧にはひびが入り、もう限界というのが見て取れる。
それなのに立ち上がろうとするグレイドモンに俺は……。

「おい、藤堂……。これは何が起こってるんだよ……」
「柴崎……?」
そこに間の悪い遅刻の悪童がやって来ていた……。
朝に姿がないと思ったら、遅刻だったのか……。
そんな事を思いながら今は目の前のこの状況に集中するしかなかった。

「今は後だ……。あれを倒さなきゃいけない」
「倒すって……。お前に何が出来るんだよ……」
「カナメ、オイラはまだいける……」
前と後ろからの声……。
けれど、俺はその更に前の状況を見る。
デュナスモンがもう一発の準備行動に入っていた。
それが見えたって今から止められるのか?
いや、止めるしかない……。

「柴崎、お前は黙って見てろ。これは俺達の戦いなんだ」
「……!」
「グレイドモン、今なら止められる……。だから、頑張ってくれ……!」
「おう!」
瞬間飛び出すグレイドモン。
そんなグレイドモンに瞬間驚きを示すデュナスモン。
しかし、すぐさまブレスオブワイバーンの体勢に戻る。
俺から見てもグレイドモンがもう動けるとは思っていなかった……。
けれど、グレイドモンは動いてくれた。
もしかしたらギリギリ間に合うかもしれない……。

そう、思いかけた瞬間だった。
ブレスオブワイバーンの準備が完成してしまった。
それを見てなお飛び出すグレイドモン。
最高の加速で最高の跳躍。
対するデュナスモンももう突進するだけ……。

負けるわけにはいかない……。
負けちゃいけないんだ。
だから……。

思わず祈るようにして目を閉じる俺。
瞬間、静かに感じられる空間。
時が止まったように感じられる。
俺はこの感覚を知っている……。

目を開ければ一瞬、全てが止まって見えていた。
しかし、次の瞬間にはグレイドモンがデュナスモンを斬り払った。
グレイドモン、デュナスモンの二体が空中から落ちる。
相打ち……なのか?

しかし、グレイドモンは立ち上がった。
立ち上がってこちらに向けてガッツポーズをしている。
勝った! 勝ったんだ、俺達は……!!

「っと、しまった……。早いとこ行かないとな、こんな状況なんだし」
「行くってどこにだよ……。藤堂」
「世界一つ救いに!」
疲れてるだろうグレイドモンには悪いがデュナスモンとロードナイトモンを運んでもらった。
そして、ゲートを開いて、俺とデュナスモンはその前に立つ。
俺は少し振り返って、そこに竜太がいるのを都合よしと思っていた。

「金曜日はごめんな、恥かかせるつもりはなかったんだ」
それだけ言うと俺とグレイドモンはゲートを潜ってデジタルワールドに向かっていた。
多分、学校はパニックだろうな。
けど……。
ゲートを潜りながら俺は最後に見えた竜太の表情を思い出してにんやりしていた。
――俺も今まで悪かった。
よく聞こえなかったけど多分、そう言ってた。

「嬉しそうだね、カナメ」
「へへっ、そうか?」
デジタルワールドの事が終わったらまた友達が増えそうだ。

星堕ちる迄 第六話 終