「随分とご機嫌なようだな、カナメ」
「まぁな」
「オイラも完全体に進化できたしね」
デジタルワールドに戻ってきた俺達は早速とチンロンモンに会っていた。
まだこっちは夜なんだけどな。
大分明るくなってきてるが。
「君がカナメ君?」
「え?」
突然後ろから声をかけられて振り返るとそこには蒼い竜騎士がいた。
まさか、ロイヤルナイツ……?!
そう連想して少し身構えるが対して相手は構えてもいない。
それどころかきょとんとして敵意すら感じられなかった。
「はは、いいね君。未来ある子どもは好きだよ僕」
更にはウィンクまでして笑いかけてくるもんだから俺はもう緊張を解いていた。
凄く友好的に見えるし、悪い奴じゃなさそうだ。
でも、究極体なのは確かだな。
Dモバイルが反応しない。
「おっと、紹介が遅れたね、僕はアルフォースブイドラモン。ロイヤルナイツだよ、一応ね」
「あ、やっぱりロイヤルナイツなのか……」
「まぁ、イグドラシルが気に入らなくなったから守る気ないから」
うん、凄い素直な性格のようだ。
それに明るい。
ロイヤルナイツにも色んなのがいるんだな。
「なぁ、グレイドモン」
「ん、何? カナメ」
「グレイドモンが究極体に進化したらどうなるんだろうな?」
そう聞いた時、グレイドモンは苦笑していた。
なんかまずかったかな。
「ははは、究極体に進化するには凄い経験と実力がないとね」
「そう、それに究極体への進化をそう急ぐ事はない」
「究極体二体を相手しても勝てたんだから、オイラ達ならまだ究極体の力は必要ないって」
う、この場にいる全員から……。
気になるものは気になるんだけどなぁ……。
まぁ、いつかは進化できる日がくるか。
「あ、そういえば、チンロンモン」
「何だ?」
「デュナスモンとロードナイトモンの事なんだけど……」
「その事なら安心していいよ。天界にある独房に閉じ込めてきたから」
閉じ込めって……。
まぁ、出てこないなら安心か。
殺すってのは嫌だからなぁ……。
「さて、それでは、カナメ」
「あぁ、そうだな。最後は西に行かないといけないんだもんな」
「そう、そこでバイフーモンに会って認められて来るのだ」
そう言ってチンロンモンは自らの足の周りに浮いていた蒼い珠をこちらに向けてきた。
いつも通り、それにDモバイルを掲げるといつも通りにゲートが開いた。
これで次の場所に行ける。
「何やら不穏な空気を感じる。気をつけるのだぞ」
「あぁ、何とかするさ、俺達でな」
「四聖獣はバイフーモンで最後、頑張ろうカナメ」
「それじゃぁ僕は先に天界に行ってるね」
ゲートを潜る直前にアルフォースブイドラモンがそう言って別のゲートに消えた。
そして、ゲートの中を潜りながら俺はハッとした。
さっきから天界って言ってたけど、ゲートあるのか?!
しかし、そう思った時には既に遅く、俺達は先ほどからの目的地、西へと来ていた。
「…………」
「どうしたの、カナメ」
「いや、アルフォースブイドラモンと一緒に行けば天界すぐだったんじゃないかと思って……」
まぁ、過ぎちまったもんは仕方ない。
最初から順番どおりにやってきたんだしここはこのまま四聖獣に会って行こう。
どうせ、ここで最後だしな、きっと時間的にはそう変わらないよな。
気を取り直して俺達はバイフーモンを探す事にした。
「けど、凄い谷だな。ここ」
「うん、今までは四聖獣のいるすぐ近くだったんだけど、今回は違うみたいだね」
「お前、やっぱり何か色々知ってるよな……」
「ジジモンがね、色んな場所に連れてってくれたんだよ」
あぁ、なるほどなぁ、と思いながら辺りを見回してみる。
何もないな……。
隠れられそうな場所もなければデジモンもいないし……。
とりあえず、前か後ろかどっちかに進まないとな。
「やぁ、何かお困りのようじゃの、お二人さん」
「え?」
後ろから声が……。
というか、何でこの世界の住人皆後ろから声かける奴ばっかなんだよ…!
まぁ、多分時間稼ぎしたい、とかそんなんだろうな。
って、どこに言ってるんだか、俺は。
「ジジモン様、久しぶりですね」
「何、ワシだってまだまだ現役じゃ」
「どっから出てきたんだよ、ジジモン……」
「そんな1匹出たら30匹は覚悟しろみたいな物言いは勘弁願うわぃ」
あぁ、一部では完全禁句に上がるアレか……。
って、うまく話はぐらかされてないか……?
まぁいいか……。
どうせ……ってあれ、ジジモンの杖の肉球の部分黒かったっけ?
「それよりじゃな、カネメ君」
「カナメだっつの! 忘れてるんじゃねぇよ!」
「おぉ、失敬失敬。カナメ君。ここはまずは後ろに行くんじゃ」
「道知ってるのか?」
「これでも知識には自信がありますじゃ」
という事なので、ここはジジモンを信用してついていく事にした。
そしたら道が合っていたようで30分ほどで街についた。
しかし不穏な空気だ……。
チンロンモンの言ってたのってこういう事かな。
俺達は用心して進む事にした。
「なぁ、グレイドモン」
「大丈夫、分かってるよ」
「ワシは逃げますじゃ」
「って、おい!」
そう言われた時にはもうジジモンの姿は遠く。
道案内のためだけに来たのかよ……。
まぁ、いいや。
そう思っている間にグレイドモンの蹴りが真横を通った。
どうやら、この街のデジモン達はどこかおかしいようだ。
襲い掛かってきている。
「Dモバイルのデータ解説も正直この数じゃ意味ねぇよな」
「だねぇ、ティラノモンとかデルタモンとか言ってるけど多すぎてごっちゃごっちゃしてるし」
とはいえ、相手は成熟期。
何故か恐竜のようなのが多いが、まぁ、グレイドモンなら十分にやれる。
たとえこの数が相手でも、な。
「この数相手にみね打ちや蹴りとは随分と非効率的なやり方をするな、少年よ」
「へ?」
Dモバイルの解説が来ない……。
それに左手の盾には見覚えがある。
こいつは……。
「おっと、申し遅れた。我が名はスレイプモン、お前達に危害を加えるつもりはない」
「そう言いつつシェンウーモンのとこで吹雪起こしてたよな」
そう言うとふっと笑いながら盾を掲げているのが見えた。
あぁ、多分また吹雪だなぁ、と思いながら俺はグレイドモンを呼んだ。
すぐさまグレイドモンはこちらに来て、様子を見ている。
吹雪が起こるのは直後の事だった。
だが、スレイプモンと俺達の周りには吹雪の影響は一切ない。
しばらくすると吹雪はやみ、周りのデジモン達は皆凍りついていた。
「いかにも、あの吹雪を起こしていたのは我だ」
「ですよね〜」
「しかし、お前達の力を見たかったのだ。すまんな」
「って、言うとあのケンタルモン、ユニモンもお前の差し金か……」
「正確にはインダラモンの部下を借りたのだがな」
馬が馬に馬の部下を借りて、力を試す、ね。
馬だらけなわけだ……。
まぁ、デジモンの成長段階の事を聞いた時にちょっと気になってたしな、南の事。
サンティラモンのあの時の反応からなんとなく察しとくべきだったのかもしれないが……。
「それで、何でお前はここに?」
「あぁ、バイフーモンへ言伝に送ったヴィカラーラモン、アンティラモン、パジラモンが戻らぬと」
「ごめん、パジラモン以外分からないんだけど」
「四聖獣達の部下の名前だ。とにかく何かあったのではないかと心配して我を送ったのだ」
「8割理解した」
しっかしまぁ、最後の四聖獣なのに一番の苦労をさせられるか……。
バイフーモンとの戦いになったりして……。
それはないよな。
変な趣味持ちはスーツェーモンだけで十分だ。
「なぁグレイドモン」
「バイフーモンの事でしょ? 大人しい性格って聞くけど」
「そうか……」
それなら安心そうだな。
シェンウーモンはのんびり屋、スーツェーモンは暇人、チンロンモンは厳格。
最後に大人しい性格ってのは嬉しいな。
まぁ、チンロンモンも嫌じゃないけど。
「さて、バイフーモンはすぐ近くだ。行こう」
今度はスレイプモンが道案内か。
背中に乗りたいなぁ、とか思ってたらグレイドモンが肩に乗せてくれた。
やっぱり俺って何か分かりやすいのかなぁ、とか思ってたら……
違った。
「しっかり掴まっててね」
「へ?」
直後体験したのは凄まじい衝撃とスピード感。
それでもスレイプモンとの距離は少しずつ開いていく。
そういう事か!
一瞬期待した俺の気持ちはなんだったんだ……。
この速度が止まった時、俺は正直車酔いした気分だった。
これはスレイプモンの背中だったらもっとひどかったかもな……。
「大丈夫? カナメ」
「手加減された速度で酔うならば、アルフォースブイドラモンの本気だとどれほどいくかな」
あれで抑え目のスピードって、しかもアルフォースブイドラモンもっと速いのか……。
けど、目的地に……。
いや、違うか。
「今度はもうちょっと揺らさないように頑張るからね」
「だからといって遅れるでないぞ」
そう言って二人とも再びあの構えに入る……。
やめてくれ!!と言う間もなく顔面に容赦なく叩きつけられる風。
俺は再び地獄を体験していた。
それがまた終わると二人は周りの景色をいぶかしんでいた。
若干吐き気のしている俺が見ても、ただの錆びた鋼の荒野にしか見えなかった。
珍しいもんがあるものだなぁ、と俺は思うだけだが。
「おかしいね、これは……」
「あぁ……。ウィンドオブプレーリーがこんな事になっているなんて……」
「プレーリーって草原なのか? ここ」
中2がなんでプレーリーの意味知ってるんだ、という空気が一瞬流れる。
俺も多分、辞書で読んでただけなんだが……。
それでも、ここが草原とはお世辞にも言えなかった。
一面赤錆の出来た鋼で埋め尽くされ、壊れている。
よく見れば何かの爪痕のようなものもあるが。
「ぐぉぉぉぉおおおおおお!」
と、どこからか獣のごとき咆哮が響き渡る。
その咆哮の先にいたものは……白虎。
「さて、イグドラシルよ。バイフーモンへ試したアレの調子はいかがですかな?」
白い機械のようなものが長いヒゲを蓄えた老人のような魔王へ向く。
どこか無機質で存在感がない、機械が……。
「お気に召したようですなイグドラシルよ。なぁに、次なる刺客は既に用意済みじゃわい」
スゥっと後ろから現れる姿があった。
正確な姿は分からないが、それはアルフォースブイドラモンと同じ姿形をしていた……。
それがフッと消えると、その場は静かになった……。
ただ、不気味な笑い声を残して……。
「おい、スレイプモン、これどうなってんだよ!」
「分からぬ、が、四聖獣の力は我らロイヤルナイツ以上だ……」
「落ち着いてる場合じゃないでしょ、まぁ、慌てても仕方ないけどさ」
目の前に広がるのは白虎との戦闘の光景。
どこが大人しいんだよ、と思いながらも二体の戦闘をサポート出来るよう考えを巡らせる。
俺的に見ると、バイフーモンは速度互角で力も防御向こうに分があるだろう。
その上暴れ馬のごとく動きが読めない。
これまずくね……?
そう思った時、バイフーモンの尻尾に何か黒い輪がついてるのが見えた。
何だ、アレ……。
「グレイドモン!」
「何、カナメ」
「バイフーモンの尻尾」
そこでグレイドモンも気づいてくれたようだ。
明らかに何アレという反応をしている。
が、直後に迫る爪を避けるため、再び戦闘に集中し出した。
どうやらあの黒い輪がバイフーモンを狂わせていると見て良さそうだ。
とくれば、早くあれ壊してしまわないとな。
アレ、俺なんで戦闘中なのに頬が緩んでるんだろう。
おかしいな……。
「カナメ、早く本当のバイフーモンに会おうね!」
「その為にもあの黒い輪を壊さねばな」
あぁ、そうか……。
俺、新しいデジモンに会うのが楽しいんだ。
……よし。
バイフーモンの攻撃は一撃でもくらえば終わりだろう。
なら、攻撃を受けないようにどうやってあの尻尾を攻撃するか。
バイフーモンの動きを止めるっていうのがベスト。
と来れば、まずは試すのみか。
「スレイプモン、合図出したら吹雪頼む」
「どういう合図だ?」
「グレイドモン、バイフーモンの注意を惹きつけるんだ!」
スレイプモンの質問は無視。
正直、時間が勿体無い。
そう思いつつDモバイルのメール機能の相手先をスレイプモンへと合わせていた。
無論、合図の事だ。
しかし、まぁ、スキャンすればメールアドレスが自動登録されるなんてな……。
それはさておき、とにかく今は如何にしてチャンスをつくるか。
失敗すれば……いや、考えることじゃないな。
「グレイドモン、効果がなくてもいい、攻撃を避けたら少し斬りつけるんだ!」
「カナメも無茶な要求するねぇ」
そう言いつつも俺が目となり、グレイドモンの反応速度も上がってきた。
俺の目もバイフーモンの腕の振りの速さにだんだん慣れてきたんだな。
次第にバイフーモンの注意がスレイプモンからグレイドモンに集中し始める。
よし、もう少しだ……。
「右から来る、今だ!」
「クロスブレード!」
その攻撃はただ爪を掠めるだけに終わった。
だが、それでも十分にバイフーモンの注意をひきつけられた。
スレイプモンへの攻撃がなくなり、グレイドモンが防戦一方に追い込まれる。
今なら尻尾を狙えそうなものだが、如何せん標的は小さい。
それに動きは激しくなっているのだ。
はずすかもしれない状況でただ一点を狙うのは得策ではないだろう。
そう、はずした場合のリスクを考えると……。
俺はメールの送信ボタンを押した。
――吹雪で動きを止めろ。
と、そうスレイプモンへ送る。
「オーディンズブレス!!」
吹雪と共に返信が来ていた。
――こんな事が出来るならば先に教えておけ(怒)
俺はこっそり削除した。
吹雪が止まった時、そこには氷漬けになったバイフーモンの姿があった。
もう動けまいとスレイプモンがゆっくりと弓で黒い輪に狙いを定める。
そんな時だった。
バイフーモンが自力で氷を割り再び動きだしたのは。
弓を構える事に気を取られていたスレイプモンは一瞬回避動作が遅れた。
そこをバイフーモンは見逃すはずもなかった……。
――金剛!!!
波動がスレイプモンに向かう。
それを避けきれず全身に浴びてしまうスレイプモン。
すると、みるみる錆びついた金属がスレイプモンを覆った。
いや、錆びついた金属へと変貌させていった。
「な、なんだよ。アレ……」
「バイフーモンの必殺技だよ……」
そう言ったグレイドモンは凄く深刻そうだった。
まるで、何か凄くいやなことでもあるかのように……。
「金剛をくらったら、体を砕かれるかバイフーモンを倒すかしかないんだ……」
「…………。」
よくよく周りを見れば金属化しているのは草原だけじゃないのがよく分かる。
きっとこの金属の世界の中に四聖獣の使い達もいるんだろうな。
なら……。
「やる事は一つじゃねぇか」
「本気……?」
「デュナスモンとロードナイトモンを同時に相手できたんだ。きっとできるさ」
金属と化したスレイプモンが地面に落ちる。
それを合図にしたかのようにグレイドモン、バイフーモンの双方が走り出す。
一回目の交錯はまるで互いに互いの得物の威力を見極めるかのように。
そして、互いに向き直って再び激突する。
「左に寄って回避! そのまま斬りつけろ!」
迫り来る左の爪の一撃を右脚に隠れるように避けながら右脚に斬りかかる。
が、それを見越したのかはたまた野生の勘で読んだかバイフーモンは跳んだ。
そして、そのまま口を開き、金剛の体勢に。
「草原の金属を利用しろ!」
と言うが早いかグレイドモンは地面を円状に斬りつける。
そしてそのままその円盤状の地面を剣で刺し傘のようにして波動をかわす。
のみならず、そのまま剣を振りぬいてバイフーモンの横っ面へと叩きつける。
円盤状の金属が砕けるあたり相当な力をこめただろう。
それなのにバイフーモンはすぐさま体勢を整えてこちらに跳躍してきた。
「落下地点はグレイドモンちょうど……。30m前方まで走れ!」
一瞬の加速でバイフーモンの着地の直前に30m前方まで走るとグレイドモンはすぐに構える。
そして、そのまま尻尾の黒い輪へと剣を振りぬく。
その最中に尻尾がグレイドモンを弾き飛ばす。
惜しい!とばかりに指を鳴らす。
しかし、そのまま構えを解くことはなくバイフーモンへと正対する。
『カナメ、オイラはどうすればいい……?』
「今考えてる……」
『頼りないねぇ……』
「そう言ってくれるなよ」
再び双方が動き出す。
爪の攻撃をいなしながらグレイドモンはバイフーモンと交錯し、そのまま体を捻る。
――クロスブレード!!
十字の剣閃がバイフーモンの腹目掛け直進する。
が、バイフーモンは器用にも振り下ろした右腕を軸に身を捻りかわした。
更にはその勢いそのままに後足での蹴りがグレイドモンへと直撃した。
何あれ、虎じゃない!
そんな事を思いながらもグレイドモンの安否を確かめる。
立ち上がるグレイドモンだが、左腕は力なく垂れ下がっている。
「大丈夫か!?」
『左腕がちょっとやばいね……』
などと自嘲気味な口調で語るグレイドモン。
溢れそうになるものをこらえながら策を練る。
右腕一本ではもうまともな攻撃はできない。
ではどうする……?
『カナメ、逃げて!』
「え?」
そう声が掛けられた時にはもうバイフーモンは俺の目前で。
逆光を背負いながら迫るバイフーモンに俺は一瞬何かを重ねた。
キキィィィィィィ――!!!
耳に鼓膜を破るような鋭い音が蘇る。
――助けてッ!
走馬灯のようなものを見ながら俺は実際の視界に右手が迫るのが見えた。
あぁ、いやこれも走馬灯なのか……?
黒く光る太い手が俺を押し飛ばす。
「カナメ、大丈夫?! カナメ!?」
バイフーモンに背中を思い切り斬られマントも鎧もボロボロになっていた。
それでもグレイドモンは要以外の何も心にはなかった。
ただ、目を開けず気を失っている要の体を支えながらどうしていいのか分かっていなかった。
しかし、それでも後ろから迫る影には気づけた。
要を守らなければ!そう思うとまだ無事な右腕をその爪の防御に向かわせる。
そこでようやく違和感に気づいた。
右腕がグレイドモンとしてのものではなく、黒く光る腕になっていた事に。
「え?」
間の抜けた声をあげながらもしっかりと爪の一撃を防ぎきった。
それはグレイドモンとしての力では絶対に不可能なもの。
だが、何故かこの腕だけは変容を遂げていた。
未熟に消えかけて……。
「まさか、カナメが……? いや、今はこの力を使わない手はない!」
空中に魔方陣のようなものが描かれる。
それを見てバイフーモンは一瞬たじろぐが、すぐさま爪を振り上げ降ろす。
「遅いよ……」
――デジタライズオブソォォル!!!!
魔方陣から放たれる無数の緑の光弾。
それが地を駆け宙を舞う。
バイフーモンの体が緑の光弾によって宙に浮く。
そして、そのまま全身を緑の光弾がぶつかっては離れを繰り返す。
「終わった……」
グレイドモンがそう言うと同時、黒い輪は砕け、右腕の変容も直っていた。
これはいったい何だったのかいぶかしんでいると草原が元に戻っていくのが見えた。
何はともあれ、万事解決。
きっとバイフーモンもこの事でデジコアを渡してくれるだろう、グレイドモンはそう思った。
グレイドモンは草原に倒れこんだ。
「あれ、力が入らないや……」
けどま、いっか。
そんな事を呟きながら草原の風を感じていた。
隣にいるかけがえのない物を守れたのだから。
グレイドモンは暫し、笑いながら転がっていた。
星堕ちる迄 第七話 終