今日は雨だ
何でもない筈なのに気にかかる
そんな日には大抵何かが起こってしまうのだ

第壱話 ─接触─

一人、少年が雨の中街を走っていた。
幅の広い川に沿うように、上流へ向かって。

時間にして5:30
何故走るのか、何時からそうだったのか……

本当は全て覚えている。
ただ、無意識に始めていただけのこと。
いつしか日課となって続けていただけのこと。

気づけば辿り着くいつもの橋。
もう隣町まで来てしまった。

橋の名前は縁溝橋(ふちみぞばし)なんていう意味のわからない名前だ。
この橋を見て少年はそれ以上前に一歩を出すことはしない。

何かが歯止めをかけるのか、ここまでで満足なのか?
そんな事は誰にもわからない。
少年にすらも。

少年が走ってきた道を一時間ほど戻っていた。
それだけで彼は目的地に着いていた。

森の中に構える一軒の家。
後ろには道場らしきものも見える。

「ただいま……って今は誰もいないんだよね」
彼と住居を共にする者は一人なのだが、その一人はとある旅行に出ている。
なんでもとても重要なのだとか。

とはいえ、よくある事なので特に気にする様子もない。
彼は帽子とレインコートを脱ぐ。
すると現れたのは血のように真っ赤な髪の毛と開いているのかわからない目だった。

一人台所に向かって朝食の支度をする。
メニューは味噌汁、焼き魚、豆腐、納豆、ご飯と和風に揃えられた。

食べ終える頃には6:45
歯を磨き顔を洗ってまた外に出る。
今度は家の後ろの道場に向かう。

袴と胴着に着替え竹刀を持ち、準備運動を行う。
基本的な素振りを15分ほど行うとまた元の衣服に着替えて家に戻る。

時間は7:05
彼は今度は色々な家事を行う。
掃除に洗濯、食器洗い。
小まめなのか数は少ない。

ようやく7:30となり、彼は制服に着替える。
彼の通う学校までには30分かかる。
そして、今日はある行事の日でもあった。



─学校─

今日は卒業式。
その中の卒業生の中に少年はいた。

「不知火(しらぬい) 鳥光(とりみつ)」
そう名前が呼ばれた時に少年は前に出た。
卒業証書を受け取り、席に戻る。
不知火 鳥光。それが少年の名前だった。

そして、観客席の方からは色々と話し声が聞こえる。
内容は、
「アイツ、あんな髪なのに成績表オール5だってよ」
「知ってる。しかもアイツあの名門高でトップ成績で合格だろ?」
「その上、体育祭の個人競技では歴代最高記録しか出てないし」
恐ろしく優秀な事で有名らしい。
しかし、髪の事はやはり問題にあがるようだ。

更に、こんな噂話まで持ち上がる。
「アイツの目を見ると記憶消されるって」
「え? 俺は魂がアッチ逝っちゃうって」
「俺は一生を夢の中で過ごすとか聞いた」
「違うって、心を見透かされて食われるんだ」
と、こんな噂が流れている。
やはり開かれない目、ということで噂が一人歩きしたのであろう。
人間というものは何故か想像するのが好きなものだ。

そうこうしてる内に卒業式は終わりを迎える。
何もなく、後は暇である。

「卒業生はいいよな〜、明日から三週間休みだぜ?」
「俺らなんてまだ一週間も通わなきゃなんねぇのにな」
そんな会話が玄関で聞こえてきた。
1、2年生のようだ。

しかし鳥光は気にせずに帰路につく。
卒業生は卒業生らしく、寄り道も、打ち上げパーティーもやらない。
周りでは打ち上げパーティーをやるかのような会話が聞こえるが……

「打ち上げは禁止なのに……」
そう、本当のところは打ち上げパーティーの類は禁止だ。
最後の思い出もいいが、騒がしいと世間の目が気になる。

そして、鳥光は静かに校門を出て行くのだった。



─家─

「ただいま〜」
今度は傘立てに傘を入れ靴を脱いで玄関を上がる。
午後の予定は殆どない。
する事といえば家事だが、殆ど済んでいる。

鳥光は二階にある自分の部屋に上がると机に向かう。
する事がないと彼はいつも教科書などで予習や復習をする。
大抵の事は一度見たり聞いたりすれば覚えてしまうのだが……

─数時間後─

勉強を終え机から離れる。
時間は4:50

また走りに行く時間だ。

レインコートを着ようとして立ち止まる。
何やら物音を聞きつけた。
方向的に道場の方からだ。

鳥光は迷わず進んでいく。
何も持たず素手で。


─道場─

「誰かいるのかな?」
…………。
反応はない。
しかし、調べるのが普通。
そして、彼もその普通の行動をする。

だが、殆ど隠れるところもない。
つまり、探すまでもない。
特に人が隠れられるはずもない防具棚なんか。

「見ぃつけた」
「…………」
そんな探す必要のなさそうな所を迷わず捜索した結果彼は何かを見つけた。
それは傷だらけの蒼と白の小竜。
ただの人形じゃないのか?

「人形のフリしても、ねぇ?」
「すまん。殺気を放つのをやめてくれ」
人形のフリをしても彼は道場にあるもの全て把握していた。
今までなかったものが増えても彼にはわかる。

だからこそ、今回のこの不思議な生物(?)が生物だと思った。
しかし、ここは驚いて然るべきではないのだろうか?

「俺は不知火 鳥光。君の名前は?」
「ブイモン」
「なんでここに来たの?」
「すまん」
「…………」
なんとも言えない微妙な空気が流れる。
なかなか話が進まない。
鳥光はとにかく、目の前にいるのが地球上に存在しない生物だと思っていた。
しかし、日本語を喋るという事に納得がいかない。

ということで、彼の結論は……
地球上には存在しているが、全く人目につかないでいられる場所に生息している。

「どこの出身?」
「すまん」
「迷子?」
「違う」
「宿泊場所は?」
「ない」
「何の目的で来たの?」
「すまん」
「勝手に道場に侵入した事については?」
「すまん」
殆どすまんで返される。
つまり、殆ど何も言えないということだ。
やはり人間とは違う種族だからだろうか?

「質問に答えられないんじゃ探してる人も見つからないんじゃない?」
「すま……なんで人を探していると──」
「分かるよ。だって、自分の住処を離れて来たんだろうし、その怪我だしね」
「それで何故に人を探していると?」
「何か強い決意を秘めた目だから、きっと助っ人でも呼びに来たんじゃない?」
他にも考え付くだろうが彼はなんとなくこの考えが一番近いと判断したのだろう。
そして、それは見事に当たっていた。
果たして本当に勘なのか?

「それについては道具が……」
「知らない人に助っ人頼むつもり?」
「まさか、こんな……」
「君の世界って凄い文明なんだね」
まるっきり雰囲気が違う二人。
しかし、会話は噛み合わない。

「ブイモン君?」
「ブイモンで構わぬ。しかし、このような偶然が……」
「あぁ、探し人って俺の事だったの?」
ブイモンが沈黙する。
呑み込みが早いからだろう。
いや、むしろ、呑み込んでからの反応か?

「言っとくけど、俺ただの中学生……っと、今日卒業したんだった」
「ちゅうが……まぁ良い。それより……」
「俺にどう戦えって?」
返事が早すぎる。
せっかちなのか?
なんとなくついていけないブイモンだった。

「何も肉体的に戦ってほしいとは言っていない」
「なら、どうやって戦うの?」
「このD−トランスファーを使ってだ。頼む、私に力を貸してくれ」
「俺でいいならね。困ってるならお互い様だし」
こんなに簡単でいいのか、とブイモンは思うが、そっと隅に置いておく。
しかし、ブイモンにはそれ以上に目の方が気になっていた。
こんなに閉じていて見えるのか、と……

「その目は……」
「見えてるから君の事を見つけられたんじゃないかな?」
一瞬、得体の知れない恐怖を見た気がしてブイモンは一歩引く。
もう聞くのはよそう、そう心に誓って……

「やだなぁ、そんなに怖がらなくてもいいのに」
「…………」
再び沈黙。
しかし、そんな沈黙を破るのは緊張感のない、腹の虫だった。

「何か食べる?」
そう言われて連れられた先はやはり台所。
今度は冷蔵庫から卵と今朝のご飯の残りといくつかの具を取り出す。

それらを今度はフライパンに入れて炒める。
数分後、皿には炒飯が乗っていた。

「これは?」
「炒飯っていう食べ物だよ。口に合うかは知らないけど」
とりあえず一口。

「美味い……」
「そう?」
ちなみに、彼の料理を食べた者はいずれも美味い、と言う。
それも、思わず言ってしまうのである。

─数分後─

「さてと、そろそろ話を聞かせてもらってもいいかな?」
「私が来た、目的だな?」
そう言ってブイモンは話し始める。
内容を簡単にまとめると次のようなものだ。

ブイモンはデジモンという種族の一人だという。
そんな彼の住んでいる世界──デジタルワールド──は今、危機的状況であり、
そんな危機的状況をデジモンだけで解決できないと人間に助けを借りるという。

但し、毎回助けを求めに行くのはランダム。
その役目に選ばれた者は人間をパートナーとして、危機に挑む。

「選ばれた基準がよくわからないけど」
「それは、このD−トランスファーが決める」
つまりは、何故選ばれたのかなど人間はおろかデジモンにすらわからない、と。
オマケに実はデジタルワールドへの戻り方も分からないと。

あくまでもD−トランスファーはチケット。
デジタルワールドへの船は自分の力で、ということだ。



同時刻、別のデジモンもこの世界へと来ていた。



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