成功も失敗も都合によって区別される
時には死すらも成功となる
第二話─敵襲─
静かな夕暮れ。
雨上がりの後、赤い夕日が地平線に沈む頃。
空の赤にも負けない赤さを持つ者が降り立った。
場所は何の変哲も無いどころか遊具も何も無い公園。
「Zzz...」
しかし、寝ていた。
幸せそうな寝顔で。
そう、彼もデジモン。
そして、デジモンにも個性がある。
しかし、寝ていると見つかってしまう。
本当ならばどこかに隠れるべきなのだが……
「静流いる〜?」
そう言いながら公園にくる少女がいた。
なんとタイミングの悪いことだろうか。
しかし、そんな事は構わないと言いたげに寝ているデジモン。
そして、何故少女は気づかないのだろうか。
デジモンはなかなかに大きいのに……
「ここじゃないとすれば……」
「うぁっ…!」
デジモンが声を上げて起きる。
否。起こされたと言うべきだろう。
歩き回っていた少女の足が見事にデジモンの腹へ……
こんなものが出会いで良いのか疑問だが、まぁ、得てしてこんなもんだろう。
ようやく、少女もデジモンの存在に気づいたわけであるし……
「うぅん? ……おはよぅ」
「おはよう? アンタ誰?」
「僕はギルモン。忘れちゃったの?」
「初対面でしょうが……」
いったいどこから来るすれ違いだろうか?
会話が成り立たないことを察した少女だった。
「何言ってるのさぁ、覚えてないの? ていうか君誰?」
「アタシは龍河 蒼香……。ってやっぱり初対面じゃないの!」
初対面の相手との少しの会話にかなり疲れる蒼香だった。
しかし、蒼香はそこまで深く突っ込むのはやめにしておいた。
今は他にやることがある。
「それより静流探さなきゃ…… それじゃね」
「人探してるなら手伝おぅか?」
正直、ついてこられたくないという思いがあった。
どう見てもギルモンは小動物には見えない。
強いて言うならば恐竜。
「遠慮しとくわ……」
「その子の持ち物とかある?」
どうやら断るという選択肢は存在しないらしい。
無視しても恐らく結果は同じ。
諦めて静流の持ち物の財布を差し出す。
すると、ギルモンがにおいを嗅ぎ出す。
「(犬なの……?)」
いや、もう座りながら尻尾を振るなど犬のようである。
ギリギリ、犬で通せるのだろうか?
「こっちだよ」
「ハァ……」
どうにも納得のいかない蒼香だったが、ツッコム気力がなかった。
何より、周りの人が普通にギルモンの事を気にしない。
それどころか小さな子供がワンワンなどと言って撫でる始末。
「(気にすんのってアタシだけ……?)」
「うぅん?」
どうでも良くなってきた蒼香だった。
気にしたら負け。
そう心の中で呟いて……
「いたよ」
「(やっぱり犬なの?)」
本当にどうでも良くなってくる。
しかし、さすがに静流という少女の反応は他と違って欲しい。
そう願いたくなるのは身内故なのだろうか?
「…………」
橋の上からただ呆然と川の流れを見つめる少女は全く気づいていない。
ギルモンが真横で同じように川の流れを見つめているというのに……
まぁ、いちおう他の人と違う反応ではある。
「静流、また迷子になったの?」
「…………」
頷く少女に溜息のこぼれる姉─蒼香─であった。
そして、相変わらずギルモンに気づかない。
帰り道でずっと横を歩いていても、だ。
いや、むしろ気づかないフリなのだろうか?
どちらにせよ声は出さないと蒼香には分かっていたが。
「おかえりなさい、蒼香に静流。と、どちら様?」
「僕、ギルモンだよ」
「御夕飯食べてく?」
満面の笑みでいう母を見て蒼香は泣きたくなった。
何故、最も身近な人物がこうも順応が早いのだろう。
といいつつ自分も自己紹介をしてしまった身の上。
本当は突っ込んではいけないのかもしれない。
忘れよう。
「今日は泊まっていく? ギルちゃん」
「え、いいの?」
「勿論!」
母の視線がこちらに向いてくる。
娘に反論する権利はない。
そう、無言で語りかけていた。
「(反論したら怒らせるだけね……)」
なんとなく泣きたくなる蒼香だった。
─数分後─
「──というわけでアンタの部屋に居候するそうよ」
「居候って、ちょっと!」
「文句、ある?」
怖い…… 多分、この世のなによりも怖い。
そう思えてならないのは蒼香だけなのか?
こんな母と一緒にいられる父のなんと凄いことか。
「文句、ないです」
思わず謝りたくなるのを抑えて一言だけで済ませることにした。
長く話すなど愚行、一刻も早くこの状況を抜け出したい。
そんな思いでいっぱいである。
「よろしくね〜」
この赤い生物の笑顔はどこまでも無邪気。
しかし、何か裏がありそうでならなかった。
とはいうものの、今はこの状況を嘆くほか無かった。
─縁溝橋─
現在時刻、8:30
街灯の灯りに照らされて歩く二つの人影。
塾帰りなのか、鞄を手に提げ歩いていく。
そして、なにやら会話をしているようだった。
何の変哲も無い、ただの会話だ。
「今日のテストどうでしたか?」
「ボチボチ」
「ハハ、そうですか、私は全く駄目でしたよ」
「とかいいつつ90点以上はキープすんじゃねぇの?」
「それは一樹の方でしょう」
一樹、と呼ばれた方は少しとぼけた様子で手を上げる。
恐らく、「何のこと?」とでもいうジェスチャーのつもりだろう。
それを見て白銀 狼牙は一人溜息を吐くのだった。
「それよか、来年の進路どうすんの?」
「普通の高校にいきたいものですけどね」
「俺なんかあの名門校以外、全部却下されんだぞ?」
「まさか、あの神代高校ですか?」
「そのまさか、まぁ、今年は満点合格した奴がいるみたいだけどな」
どこから仕入れたんだその情報。
思わず口に出しそうになったその言葉を狼牙は出さずにやめた。
きっと聞いてはいけないんだ、とそう心に言い聞かせて。
「けど、お前もそこしか選択肢ないんじゃねぇの?」
「たしかにそうかも知れませんね。親が名門いけってうるさいですから」
「お前んとこの親父さん、医者だっけ? そりゃ、継がせたいもんな」
「本当に、中学が普通の所いけただけで運がいいですよ」
「俺なんかは親父が俺を自慢したいからってんでいかせんだからなぁ」
やれやれといった面持ちで首を横に振ってみせる彼。
それを見て狼牙も苦笑いしていた。
お互い親のために苦労しているのだ。
そのような共通点が二人の仲を一層深めているのかもしれない。
などと会話をしてる内に橋を渡りきっていた。
と、同時にコンビニが見えてくる。
二人はそのコンビニの中に入ると一本十円の棒状のお菓子を買っていく。
数はその日の気分だが、塾帰りには毎回買って帰るようだ。
「安いくせしてうまいよな、うまいBohって」
「名前は伊達じゃないってことですね」
一樹:塩砂糖味、狼牙:魚肉牛タン味。
買った味について深くふれないことにしよう。
ともかく、そんなことをしてるうちに一樹の家の前に着く。
ごく普通の一軒家だ。
門の表札には天野とある。
「それじゃな、狼牙」
「それではまた」
ここで分かれて狼牙は一人で歩き出す。
とはいえ、数m先の家でさほど遠くはないのだが……
こちらは普通と比べるとでかい。
いや、でかいというよりも、既に屋敷に近い気がする。
和風建築の広い家だ。
表札にももちろん、白銀とある。
しかし、中にいる人といえば祖父母ぐらいなものだ。
父親は仕事ばかりに集中、母親はいない。
「ただいま帰りました」
返事なし。
祖父母とももう寝ているのだろう。
茶の間には夕飯が二人分あるだけだった。
「いただきます」
しっかりと手を合わせてから飯を食べる。
一人だけの飯……
いや、もう一人分減っている。
いったいどこに?
「目の前だ」
「ごちそうさまでした」
再び手を合わせて食べ終わる。
目の前にいる紫色の獣についてはノータッチ。
完璧に気づいていない。
「うおぃっ!」
「あれ? どこからか、声が。おや、父の分のご飯が……」
「空腹のあまりな……。だが、うまかったぞ」
「どこからの声でしょうか?」
「うおぃっ!」
部屋は決して暗くない。
また、何かに隠れているわけでもない。
極度の存在感の薄さ。
いや、いきすぎた存在感の薄さだ。
きっとそうだ。
「…………」
「………?」
ようやく気づいた狼牙だったが、言葉を発さない。
それに対してその先にいる者も黙る。
理解が追いつかない。
二人とも心の中ではそんなことを思っている。
狼牙は目の前にいる生物が何なのか、
一方のその者は反応の意味が分かっていない。
「犬?」
「……は?」
「喋る犬、なんて聞いたことありませんし……まさか、新種?」
「は?」
やはり理解しがたい者だと、獣は思っていた。
一方の狼牙は自問自答を繰り返していた。
話が進まない……
─数分後─
「──という経緯で、不本意ながら俺が来ることになった」
「……信じがたい話ですが、ドルモンさん?」
「事実だ。俺も役目なんでな、退くわけにはいかん」
「何故、私が選ばれるんでしょうか?」
「知らん」
説明を終えたドルモン。
なのだが、狼牙には受け入れがたい話。
すぐに納得する、というわけにはいかなかった。
それなりの理由は必要なのだろう。
机の上におかれたD−トランスファーが何故か遠く感じる。
「しかしな、お前が協力せねば世界が消えることだけはたしかだ」
「何を根拠にそのようなふざけたことを?」
「運命。そして、お前は断らない」
「ですから──」
「お前の望みを叶えてやる」
僅かな沈黙。
しかし、それは実際に流れる時間であり、体感時間ではない。
狼牙が感じている時間は実際よりも遥かに長い。
信じられない、という理性。
そして、もし変わったのなら、という願望がぶつかる。
「本当に私の望みを叶えられると?」
「お前のこれからの行動次第だ」
「…………」
「…………」
再びの沈黙。
しかし、今度は先程のような重苦しさはない。
そして、沈黙は破られる。
「いいでしょう。私にできるのなら」
確かな決意を胸に狼牙は机の上のD−トランスファーを取る。
彼の叶えたい望みとはいったい……?
そして、数分後、物語は動き出す。
【9:40】
山に巨大な竜が降り立つ。
それに気づいたのは一人の少年と一人のデジモンだった。
「ブイモン……」
「気づいておったか。さすがだな、鳥光」
「言ってる内に早く動いた方がいいんじゃないの?」
外の雨は夕方から止んでいたが、土は十分に濡れていた。
初めての戦い、この地形が戦況を左右しなければ良いのだが……。
「ちょうど、真上にきちゃったみたいだね」
「メガドラモン。完全体とは……」
「完全体? 強いって事?」
「私より二回り上の強さだ」
最初から運の無い。
しかし、やるしかない。
そう決めて、メガドラモンを追いかけて走り出す。
空中の相手ならば、木が近くにあるうちに始めねば……
「鳥光、私を──」
「投げるけど、上手く着地してね」
互いに意見が一致したのか全く無駄な時間もなくブイモンが投げ飛ばされる。
息が合っていなければこれほど見事に跳びはしなかっただろう。
そして、メガドラモンの腹にブイモンという弾丸が命中する。
「……硬そうな腹筋に当たっちゃったか」
しかしメガドラモンの方が痛そうにしている。
対して落ちてくるブイモンは全く痛そうな素振りを見せない。
「まさか、本当に跳ぶとは……」
「木のおかげでそこまで高く飛べなかったみたいだからね」
落ちてきたブイモンをキャッチしながら鳥光は相手を窺う。
向こうもこちらに気づいて降下してきたのだ。
住宅地の方までいかずに済み、ひとまず息をつく。
しかし、ブイモンの石頭は凄まじかったようだ。
メガドラモンの腹部は少し赤らんでいた。
「今更だが、本当に人間か?」
「……さぁ」
などと会話しているうちにメガドラモンは手を開き構えている。
発射口だと思われる穴があり、なにか爆発物の類だろう。
爆発されると困るなぁ……
考えに行き着いて鳥光はそう思った。
何故なら、爆発などされては人が集まる。
そうなると……
「都合よく気づかれない方法なんてないからね」
「……それまでに倒せる見込みもない」
そう、既に手遅れ。
ミサイルと思われる飛び道具はメガドラモンから離れ、こちらに。
如何にしようとも爆発は避けられまい。
直後、高い空中での爆発。
理解もできぬままその有様を見つめるブイモン。
いや、理解できないのは何故鳥光が高い木にぶら下がっているのか、だ。
ミサイルが放たれてからにしては早すぎる。
わずか2秒やそこらで15mはあろう木の頂上まで……
「登り慣れてるからね。そりゃ」
横に飛び降りながら鳥光が言った。
……やはり、人じゃない。
ブイモンはそう思うだけにしておいた。
ばれてないかと顔色を窺うが表情は読めなかった。
「それより、さっきのが誘導式で良かったよ」
「狙いを逸らすために登ったのか?」
「正直賭けだったけどね。爆風も弱かったし」
「しかし完全に後手に回ったな」
メガドラモンを見やればやはり狙いを定めている。
しかし、何かが妙だ。
殺す気ならば会話中に撃てばよさそうなものだ……
それに爆風が弱かったとは、何故……
考えすぎだろうか?
「攻めようとすらしてないよ?」
「進化できればまだしも、成長期が完全体に勝てるとは思えん」
「やる前から諦めるの……」
「あまり無駄に動きたくないだけだ」
相変わらず動こうとしないメガドラモン。
隙だらけだというのにやはり妙。
それとも何か狙いがあるのだろうか?
「それでも、そろそろ動かないと駄目じゃない?」
「争いは好むところではないのだがな」
無言でミサイルを撃つメガドラモン。
まるで意思がないかのように二発。
機械のようにすら思える。
「また俺か」
そして、ミサイルの狙いは鳥光。
それに
「死ぬ気か、馬鹿者!」
追いかけようとするブイモンの前にメガドラモンが立ちふさがる。
そして、ミサイルの爆発音を耳にブイモンは目を見開く。
しかし、間髪いれずに爪を振るうメガドラモン。
吹き飛ぶ小さな体。
それについていくメガドラモン。
更なる追撃を仕掛けるつもりだ。
「やはり、ここまで……!」
「諦めるな!」
声がした方を見やれば煙の中でも目立つ赤。
そして、鮮やかな紅の光が輝いていた。
まさか、こんなに早く進化を可能にするのか!?
いや、一日目にして進化など有り得ぬ。
森の木がなぎ倒される。
「認めざるを得まい、この力は」
再び飛んで来たミサイルを片手で払い除けてメガドラモンとの間合いを詰める。
そして、両の手を組み、叩きつける。
「ハンマーパンチ──!!」
メガドラモンの頭部から鈍い音が響く。
そこを見ればくっきりと手形がついていた。
果たして生身でくらえばどうなるのやら。
「それが進化ってやつ?」
「そうだ、そして今はブイドラモンと名も変わっておる」
立ち上がろうと上体を起こしたメガドラモンの額に裏拳。
しかし、鳥光は木の枝にぶら下がるのが好きなのだろうか……
そんな疑問が脳裏をよぎるが気にしないことにした。
ともかく今は目の前の敵に集中する。
「Vブレスアロー!」
上げようとしていた右腕の爪に熱線を当て叩き落す。
そこへ迫る左腕の爪。
ブイドラモンのガードが遅れる。
「小手ッ! だよね、多分」
落ちていたのだろう大き目の枝を振り下ろした鳥光の姿。
いや、メガドラモンの爪の軌道を逸らすほどの力とは……
少なくとも常人離れした肉体の持ち主なのは確かだ。
「攻めに入れば守りが疎かになる、って事かな?」
「……単なる実力不足だ」
「……素直じゃないね」
些かの沈黙が訪れる。
と、言う訳にもいかず熱で溶接されたメガドラモンの右腕が爆風を上げる。
無理にミサイルを放とうとしたのだ。
気づかなかったのか、それとも……
「右腕を棄ておったか……!」
「それより、大丈夫?」
ブイドラモンに押しつぶされる形で鳥光は問う。
どちらかというと鳥光の方が大丈夫なのか気になるが……
ブイドラモンの方といえば背中が少し焦げている程度。
特に大した怪我ではなさそうだ。
「お前の方こそミサイル二つの爆発に巻き込まれて……」
「どこも怪我はないよ? 狙いがずれてたんじゃないかな」
確かに、と見て取るとブイドラモンは考えるのをやめた。
運がよかった、とは考えないが考えても答えはでないだろう。
それよりか、またくるだろう敵に備える。
対して鳥光はメガドラモンの事を考えていた。
初めは執拗に鳥光を狙っているようだった。
が、反面機械的だったのにも関わらず爆発などは弱い。
彼には何か、引っ掛かりがあった。
「鳥光……?」
「ん、何、ブイドラモン」
「いや、なんでもない。無事ならばそれで、な」
ひとつ息を吐くブイドラモン。
それを見て鳥光は静かに微笑んでいた。
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