たとえ何を知っていても油断をしてはならない
油断をすればどこででも死が訪れる
第四話─対照─
あれから五時間、狼牙は一人で塾からの帰り道を歩いていた。
一樹は、どこかに行ってしまった。
「狼牙、俺、悪いけど寄り道していくわ」
一樹が塾が終わってすぐに呟いた言葉だ。
いったいどこに用事があったのだろうか。
突然思い立ったというよりは初めから考えていたという感じだった。
「よ、狼牙!」
「ドルモンさん。そんな所にいて大丈夫ですか?」
「どうせ、見つからないだろ」
ポジティブと言えばポジティブだが、少し自虐的な気もする。
しかし、何のために外を出歩いているのだろうか……
外出を止めていたわけではないから、散歩という考え方もできるが。
とはいえ、誰かに見つかってても関係はない。
「で、狼牙、面倒な事この上ないが敵のにおいだ」
「においって……犬ですか」
「なんか言ったか?」
「いえ、何も」
「まぁ、いいか。ついて来い」
ドルモンの案内で進んでいく。
来た道を戻るようなルートで、なんか二度手間な気がした。
しかし、敵が出るとは……
と狼牙は考える。
いったい、自分に何ができるのか、と……
「心配するな、お前は何もしなくて良い」
「……そうですか、なら、何故わざわざ私まで」
「そういう決まりだ。仕方ないだろう」
決まりって何なんだろう、と思う。
何か見学者立会いの下、試合を行うとかそんなのだろうか。
それとも……
考え込む内にドルモンが走り出す。
慌ててそれを追いかけて走る。
「離れるな、向こうに逃げられる」
つまり、今こちらは追いかける立場。
前方に確認できるのは木の生い茂る山。
あんな所に行かれると見つけにくいだろう。
まぁ、臭いで追えば良さそうなものだが。
とりあえず、相手側の姿も見えないし、今はドルモンについていくしかない。
─龍河家─
「蒼香、ちょっと散歩しない?」
「何突然、こんな時間になんで散歩なの?」
「変なのが来たよ」
ようするに、それの駆除らしい。
仕方がないのでついて行く事にする。
時間が時間なだけに家族には黙って……
─1時間後 山─
ようやく、止まったらしいその場所で、狼牙は土を確認していた。
土は昨日の雨でまだぬかるんでいた。
こんなところで走ったりする際には気をつけなければ、と思う。
それにしても、いったいどんな敵が……
「誰だ!」
突然叫んでドルモンが飛び出す。
敵が来たのだろうか?
直後、視界の端に丸太が飛び込んできた。
反射的に顔を腕で覆う狼牙。
対して、真っ向から向かおうとしていたドルモンは既に手遅れ。
予想通りの轟音を上げて丸太に吹っ飛ばされていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「何だってんだ、全く」
眉間を擦りながら立ち上がるドルモン。
どうやらそれほどでもなかったか?
いや、丸太をまともにくらって無事とは思えない。
では、何故こんなに平気そうなのか。
ただ単に鈍いだけか?
「即席にしては上手くいったね」
「自分で引っ掛からないんでしょうね?」
「大丈夫、全部場所覚えてるよ」
何やら、木の陰から出てきた赤い恐竜と少女。
ギルモンと蒼香だ。
「お前か、あんなものを仕掛けたのは」
「うぅん? 誰君?」
「お前から名乗れ」
「ダメだよ、子供が夜遅くまで出かけてちゃ」
「俺は無視か!」
さすがの存在感。
全く気にかけられていない。
と、いうか、もしやわざとか?
「私は白銀 狼牙です。こっちはドルモン」
「僕はギルモン、それでこっちは」
「龍河 蒼香」
なんとも簡潔かつ非友好的。
初対面で、そんな慣れなれしいものどうかと思うが。
とりあえず、互いにどんな目的なのかは悟った。
では、やるべき事は……
「お集まりのようですねぇ」
「我々が処分して差し上げますよ」
突如、真後ろからかかる声。
慌てて振り向き、飛び退いて距離をとる。
目視できた敵は、正に悪魔だった。
「アイスデビモンとデビモン……」
ギルモンがつぶやいたその名はおそらく悪魔たちのもの。
如何にもな、名前だと思う。
それと同時に、黒い悪魔─デビモン─は厄介だと思う。
白い悪魔─アイスデビモン─はともかく、黒い体色はこの闇の中では見つけずらい。
「さて、赤いのとお嬢さんは私がお相手致しましょう」
「と、いう事で、ドルモンと野郎の相手は私が」
なんというか、扱いが違いすぎる。
紳士的、といえば聞こえはいいが、単なるたらしではないだろうか。
「じゃぁ場所変えようか」
「いいでしょう、そちらは任せましたよ、デビモン」
不気味な笑みを浮かべる奴らに、少し背中が冷たくなった。
それにしても何だろう、この違和感は。
蒼香も狼牙も何か嫌な感じがしていた。
それがどこから来るのかは分からない。
それでも、何か気持ち悪かった。
「蒼香、背中乗って」
「え、うん」
そう言ってギルモンの背に乗り、向こうへ行ってしまった。
残されたデビモンと狼牙達はといえば。
「さて、どうしますかねぇ……」
動きが全くなかった。
吟味するようにこちらを見ては、ニヤついている。
とにかく言える事は、不愉快だった。
「さて、ここで良いのですか、赤いの」
「赤いのじゃなくて、僕ギルモン」
まったくもう、と言いたげな顔つきでそこをまず指摘した。
そんな様子なこちら側。
「さて、お嬢さんはどうやっていたぶってあげましょうか」
「趣味悪い……」
ボソリと、本当にボソリと言ってみる。
しかし、そんな蒼香の呟きも周囲の静けさに比べれば聞き取りやすく。
やはり、その言葉はアイスデビモンに届いていた。
「趣味が、悪い?」
理解できない、というよりか、もう一度確認するため、そんな風に聞き返す。
どうやら、怒らせたか。
「そりゃぁ、趣味悪いよねぇ〜」
そこにギルモンの追撃。
これは確信的な発言だろうと、冷静ならば簡単に見て取れた。
事実、蒼香も「挑発してる……」と思っていた。
「いぃいでしょう……貴様らは、八つ裂きに決定」
相手をなめた口調から一変、乱暴な言葉遣いになった。
これは相当な怒りようだ。
それを見て、ギルモンは一つ笑みを浮かべていた。
「来なよぉ、趣味の悪いお・じ・さ・ん♪」
さり気なく、蒼香はそこから少し離れた。
理由の一つは間違いなく、何かがきれる音が聞こえた気がしたからだろう。
もう一つあるとすれば、自分の発言から広がったこの状況に少し引け目を感じたからか?
なんにせよ、このギルモンという存在は相手を怒らせようとしている事だけは分かった。
そして、もう一つ、蒼香が一緒に行動していて思った事だが。
「赤いのぉぉおおお!」
腕を振り上げ突進してくるアイスデビモン。
しかし、恐れる様子もなくただ待つのみだった。
それなのに、吹っ飛ばされたのはアイスデビモンだった。
やはり、ギルモンという存在に言えるもう一つの事……
「蔓と丸太だけの簡単な罠なのに引っ掛かるなんてマっヌケぇ」
決して、頭は悪くはない。
「おの「ファイアボール」
台詞を言う間もなく火の玉が顔面に直撃する。
起き上がろうとしたところへ来たものだから再び倒れこむ。
「何か言おうとしてたかな?」
しかし、気の抜けた口調でこんな台詞を言われたら逆にムカつくか、とも思う。
「……殺す」
途端、気温が下がった気がした。
春先の深夜だから冷えるだけか?
「コールドブレス」
吐き出される白い息。
アレか、と一つ見当をつける。
名前の通り、氷の能力を持つ悪魔。
そう理解した。
「さぁ、氷の世界に誘いましょう……」
ひびの入るような音と共に周囲の木や凍りつく。
これは、正直異常じゃないか、と思い始める。
「さて、これでもう先ほどのような罠は……」
目の前に張った凍てついた蔓に指を向け青い光を放つ。
それだけで、その蔓は崩れるようにして砕けた。
「よく、見えますよぉ……」
正直、打つ手なしか?
「ちょっと、きついかな……」
さすがにギルモンも苦笑いを浮かべながら、真剣な顔つきになった。
本当にまずそうだ……
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